「この頃の若い者は才智にまかせて、軽佻の風を悦び、古人の質実剛健なる流儀を、ないがしろにするのは嘆かわしいことだ…」(要するに、昔の人は立派だった。それに比べ、近頃の若い者は…、ということでしょうか)この言葉は柳田邦夫曰く、約4000年以上前の古代エジプト人が書き記したものだそうです。皆様も人生の先輩方に、これと同様なことを言われ、お説教された経験はありませんか? 実は人間の脳は記憶を偽造する機能があるそうで、しかもそれは、その人にとって都合のいいように巧妙に書き換えられ、過去の記憶を美化するそうです。
「『戦前の日本では、家庭で厳しいしつけがなされ、学校で修身が教えられ、みんなが高い道徳心を身に付けていた。しかし、戦後そうした美徳が失われ、今や日本人のマナー・モラルは完全に崩壊してしまった』今日の日本で、道徳に反するような事件や出来事が起きるたびに、こうした言葉があちこちで聞かれます。ジャーナリスト、作家、政治家など、さまざまな立場の人が、あたかも常識であるかのごとく昔を美化し、今を否定する論理を展開します」これは 「昔はよかった」というけれど -戦前のマナー・モラルを考える-(大倉幸弘著)という本の書評です。
今、世界の人々が日本人のモラル(道徳心)の高さに驚いています。たとえば多くの日本人は、電車に乗る時には整然と並び、電車内でも他人に迷惑をかける行為はしない。街は清潔に保たれ、路上にゴミを捨てない等々。ところが先ほどの本によりますと、戦前の日本の電車内は、力ずくで人をのけ、そのため衣服が裂けたり、怪我をしたりという混乱状態が普通で、高齢者、障害者、妊婦等に席を譲るなどということはなく、電車の床にはゴミが散乱し、時にビール瓶などを電車の窓から投げ捨て、線路の保安員が重傷を負う事件もあったそうです。また当時の「モラル低下」を嘆く新聞には、その原因を明治維新に由来するものとする論調が多かったそうです(それって、諸悪の根源は、戦後の民主主義や教育等の方向性だとする論調と似ていませんか?)
さて、安倍さんのキャッチフレーズ「日本を取り戻す」とは、どういうことなのでしょうか? 強い経済を取り戻したいというのはわかります。しかし経済以外の多くのことで、戦前の方がよく、今を変えなければならないというのであれば、いま一度、日本人や日本の社会の進歩というものをよく見て頂きたいと思います。先人たちに尊崇の念を抱くことや、日本の先行きを案ずるのは当然です。時には立ち止まることもあるでしょう。しかし、先人たちが案じつつも願った通り、今の日本人も次代を担う日本人も、着実に前へと歩んでいます。