戦後から復興し、東京タワーの竣工、東京オリンピックの開催、東海道新幹線の開通、日本万国博覧会の開催、さらには世界初のカップ麺「カップヌードル」の発売、「マクドナルド」日本1号店が銀座に開店、パンダが上野動物園にやって来た等々、沸きに沸いた高度経済成長期には、日本人の約9割の方々が、世間一般からみた自分の生活程度を「中流に属する」と回答するという「1億総中流社会」でした。
そして、この時代は一生懸命働けば所得が増え、貯蓄する余裕もでき、家庭を持ったり、子どもを進学させたり、あるいは老後に備えることもできる「自助努力」「自己責任」の時代でもありました。
しかしながら、令和4年の「暮らしと意識に関する NHK・JILPT(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 )共同調査」によると、「中流より下の暮らしをしている」と回答したのは過半数の55・7%です。その内、学歴別では65・9%が高卒以下で、職業別では62・5%が非正規雇用者・フリーランスという結果です。
また、「中流の暮らし」を送るのに必要な年収額は、「600万円以上」とする回答が高く、「親より経済的に豊かになれない」と回答したのが36・2%です。この調査で、親より経済的に豊かになれないと感じる人や、努力しても豊かになれないと思う人、将来の見通しに対して不安を持つ人が多くいることが確認されました。中流意識は崩壊し、「1億総中流社会」は残念ながら、もはや遠い過去のものとなりました。
残念なことに、どの世界においても働くことができない人たちというのは、必ず存在します。そして、様々な理由によって働けない人たちが、生きていくために生活保護を受けることがあります。
しかしながら、「自己責任」社会の中で懸命に働いていても豊かになれず、生活保護を受給しようにも自らの境遇を恥じたり、生活保護をめぐるバッシングや偏見を恐れて利用にためらいを感じている人は多いとされています。
それは、フランスでは総人口における生活保護の対象となる人の91・6%が受給しているのに対し、日本では、対象となる人の15・5〜18%しか受給していないという数字に表れています(2010年調査)。多くの方々が「努力さえすれば誰でも豊かになれる」という「自助努力」「自己責任」には限界があると感じている以上、「生活保護」への、私たちの意識も変えていく必要があります。生活保護は最後のセーフティネットです。
「中流の崩壊」に伴い、人々の暮らしが変化するとともに、将来の見通しや社会に関する考え方などの意識面にも負の影響をもたらしています。人々が希望を持てる社会を構築するためにも、政策的に所得格差や貧困問題に取り組むことが重要です。
貧困対策に必要なのは、貧困にあえぐ人の、人間としての尊厳を尊重し、社会の構成員として、社会的責務を果たせるような状況をつくっていくことではないでしょうか。私たちは貧困を含めた、それぞれの人が持つ多様性に寛容であるべきです。