日本が高度成長期に突入した1955年頃から、その経済は驚異的な勢いで成長しました。この時代、国民の生活水準は急速に向上し、家計貯蓄率は約25%に達しました。これは先進国の中で最も高い水準です。要因としては、人口に占める高齢者世帯が比較的少なかったことと、高度成長期の給与所得の伸び率の高さなどが挙げられています。しかし、時が経つにつれて、この数字は徐々に減少していきました。
それは、高齢化が進行し、職を離れた高齢者が増え、各世帯で自由に使えるお金も、消費そのものも減少し、バブル崩壊後の実質賃金の減少や、雇用に占める非正規労働者の増加等により、貯蓄するゆとりがなくなってしまったことが要因とされています。
内閣府が毎年四半期ごとに行っている国民の家計貯蓄率によりますと、令和5年の7〜9月期の家計貯蓄率は8年ぶりにマイナス0・2%となり、国民は生活水準の維持のために、貯蓄を取り崩しているという実態が浮き彫りになりました。
そもそも何で貯蓄をするのかということですが、一般社団法人・全国銀行協会が令和5年に実施した「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」によりますと、その理由の1位は「老後の生活資金」、2位が「病気や不時の災害への備え」という結果でした。そして、老後の暮らし(高齢者は、今後の暮らし)について、経済面で「心配」「非常に心配」と回答した理由は、「十分な金融資産がない」「年金(公的年金、企業年金、個人年金)や保険が十分ではない」「生活の見通しが立たないほど物価が上昇することが考えられる」ということが上位を占めています。
これは、「医療・介護費用等、老後の備えとして2,000万円以上の預貯金がなければ『人生100年時代』において、平穏な老後生活は送れない」(金融庁の金融審議会の報告書より)や、欧州諸国がベーシックサービス(基礎的な社会サービス)としているものを、我が国では「自己責任」としていることの表れであると言えます。ちなみに専門家は、近年の物価高がこのまま続けば、20年後には倍の4,000万円の貯蓄が必要になると分析しています。
そして現在、我が国は2人以上世帯の3割、単身世帯の5割が「貯蓄なし」という状況にあります。その状況を踏まえますと、ベーシックサービスにおける公的な負担割合を増やし、貯蓄に頼らずに、そのサービスが受けられようにし、各世帯の自由に使えるお金を増やし、それで消費を活性化し、経済成長につなげていくべきではないでしょうか。これは欧州諸国が既にやっていることです。そして、私は日本もそのような社会を目指すべきだと考えます。
将来への不安に対する安心材料としての貯蓄だけではなく、将来の目標や夢を実現するためや、余暇を楽しむための貯蓄になると、自分らしい人生が歩めるようになり幸福度も増すのではないでしょうか。