「新たなGo Toトラベル事業」について

 2020年の7月から12月まで、個人の旅行者の旅行代金の一部を国が負担するという「Go Toトラベル事業」を実施しました。その経済効果については多くの異論もありますが、国の試算によれば、観光業等への直接効果で2.8兆円、その他の様々な産業への波及効果を含めると3.7兆円だったとのことです。

 そして政府は、今月上旬に閣議決定を目指している、経済財政の基本指針となる「骨太の方針」に「新たなGo Toトラベル事業」盛り込むとしています。また東京都も、「東京版Go To」とも言える「もっとTokyo」を今月から試験的に再開させるとのことです。千葉県でも、県独自に宿泊者優待事業である「ディスカバー千葉」や、「千葉とく旅キャンペーン」を実施し、観光に力を入れています。

 新型コロナウイルス感染症により打撃を受けた観光業等への支援策として、あるいは景気浮揚策として、これら反対するものではありません。

 しかし、昨年から続く原油価格や原材料費の高騰がロシア・ウクライナ情勢により長期化し、加えて急速な円安がモノの輸入コストを押し上げているため、6月以降は食品だけでも3600品目を超える値上げが予定されています。食品以外にも、特に家計を直撃する値上げとして、「水道光熱費」「交通費」「保険料」、さらには従業員負担分の「雇用保険料」の料率が0.3%から0.5%に引き上げられます。

 経済産業研究所の実質賃金指数の推移を国際比較した資料によると、1990年を100として、2019年の実質賃金指数は、スウェーデン161、イギリス148、アメリカ142、日本においては106しかありません。約30年間でほとんど給与が上がっていないということです。

 内閣府が推進している「仕事と生活の調和」(ワーク・ライフ・バランス)も、『多様な働き方が確保されることによって、個人のライフスタイルやライフサイクルに合わせた働き方の選択が可能となり、性や年齢にかかわらず仕事と生活との調和を図ることができるようになる。男性も育児・介護・家事や地域活動、さらには自己啓発のための時間を確保できるようになり、女性については、仕事と結婚・出産・育児との両立が可能になる。』とされていますが、日々の生活で家計が精一杯であれば、趣味や自己啓発にまわせるお金はありません。また、我が国の労働者の有給休暇平均取得日数は9.4日、有給休暇取得率は52.4%です。そして、休暇の取得日数も取得率も、OECD加盟諸国の中で長年にわたり最下位です。仕事と生活との調和を図るどころか、働いても、働いても給与は上がらず、休みも取りづらく、働く意欲さえ無くしてしまいます。

 「新たなGo Toトラベル事業」を再開するのであれば、この事業の利用者を増やす環境づくりにも、力を注がなければならないのではないでしょうか。