ある海外の研究では、平成19年に日本で生まれた子ども達の半数が107歳より長く生きると推計されています。これからの日本は「人生100年時代」となりますが、それは、定年退職後の「老後」の期間が長くなることを意味します。
国の「人生100年構想会議」では「高齢者の雇用促進」等、「高齢者が生涯現役で社会参加」する方向性を打ち出しています。国の生産年齢人口の減少、社会保障関連予算の増大などの切迫感から、このような方向性が打ち出されたのでしょうが、そもそも我が国は、OECD加盟国41カ国の「65歳以上の高齢者の就業率」の調査では、すでに第2位なのですから、国の方針は、やっとの思いでゴールに倒れこんで来た人に「ゴールは、まだ数キロ先だよ」と言うようなものです。
さて、定年退職についてですが、年金の支給開始年齢が引き上げられたのに伴い、65歳定年退職制となった勤め先もありますが、それは全体の約16%であり、大方の勤め人は60歳で定年退職を迎えています。60歳で定年退職した人の人生を100年と考えますと、約40年間の勤めの後、それとほぼ同じ期間の「老後」があることになります。どなたでも人間の摂理として、加齢によって病院にかかる機会が増えますし、また多くの方々が、いずれ介護を受けることになりますので、「老後」の長い期間を過ごすには、社会保障の充実が不可欠となるでしょう。
我が国の家計貯蓄率は、かつて先進国の中で最も高い水準にあり、1970年台半ばには20%を超えていました。しかしながら、貯蓄する理由の第1位は「老後への備え」であり、それは「老後」に対し個々人が貯蓄を崩して備えなければならず、社会が手を差し伸べてくれないことの裏返しでもありました。そして今、社会保障は当時より進展しているものの、家計貯蓄率は最盛期の10分の1の2%台にまで落ち込んでいます。(低下の要因のひとつとして高齢化の進展が指摘されています。)また日銀の調査によりますと「2人以上世帯の3割、単身世帯の5割が貯蓄ゼロ」という状況です。体が動かなくなることに怯え、病に耐えながら、貯蓄がないがために働かねばならないような「人生100年時代」だとしたら、それはいかがなものでしょうか。
「高齢者の雇用促進」のための環境整備はもちろん大切です。しかしながら、これまで懸命に家族や社会のために働いてきた人たちがリタイアして人生を謳歌する道を選んだとしても、それをバックアップできる社会を同時につくることも大切だと私は思います。
平成30年12月2日 野田たけひこ