円滑な避難のために

 消防学校で訓練に使う大人のダミー人形は、70㎏あるそうですが、皆さまは持ち上げることができるでしょうか。日本の高齢者の平均体重は、男性は約63・4㎏、女性は約51・7㎏です。

 県内の市町村別の高齢化率は、御宿町の52・0%を筆頭に鋸南町、南房総市と続き、これらの地域は地震による津波や、大雨による土砂災害などで、甚大な被害が出るおそれがあり、孤立集落が発生する可能性の高い市町村ばかりです。

 東日本大震災における死者数のうち、60代以上の割合が全体の約65%、障がい者の死者、行方不明者の割合は健常者の約2倍でした。また、平成30年7月豪雨、令和元年台風19号でも同様に、死者数の約7割近くが高齢者でした。そして、能登半島地震における死者の7割超も65歳以上の高齢者でした。

 災害対策には自分自身や家族で備える「自助(一人一人の役割)」、地域で助け合う「共助(地域の役割)」、行政が行う「公助(行政の役割)」が基本となりますが、高齢者や障がい者など、災害が発生した際に自力で避難することが難しい人たちを、避難所などの安全な場所に円滑に避難させるにはどうすべきなのでしょうか。

 動作が不自由な人を避難所まで移動させるのはとても大変なことです。しかしながら、高齢化率の高い地域では、高齢者が高齢者や障がい者の命を救うために「共助」することになります。そして、乳幼児がいるご家庭では、日中に災害が起こると、女性が「共助」するケースもあるでしょう。

 東京消防庁の「消防少年団 高校生団員のてびき」には「避難支援資器材」のひとつとして、「リヤカーの荷台を要配慮者の搬送に活用することで、一度に複数の要配慮者を搬送することが可能」としてリヤカーが紹介されています。

 また、『東日本大震災における宮城県内自主防災組織の活動事例集』によると、

  ・在宅避難者に支援物資を運ぶ際にリヤカーを利用した。

  ・災害ボランティアの団体に貸し出しをした。

  ・備蓄品の見直しをし、リヤカーを追加配備した。

と、数多くの報告がされています。リヤカーは、要配慮者を搬送するだけでなく、支援物資の搬送や、復旧復興の際にも役立つはずです。車が通れないからと、救助や救援が遅れることはあってはならないことです。

 能登半島地震では、道路の寸断により多くの孤立集落が発生し、車での人員の搬送や物資の搬入が非常に困難となりました。これは、同じ半島性を有する千葉県でも同様なことが発生する可能性がありますので、今から十分な備えをする必要があります。

 私は、今後ますます加速する高齢化と、高齢者の単身世帯が急増することから、県内の市町村に「防災リヤカー」の配備と、災害時における有効活用を訴えていきたいと考えています。