令和元年(2019年)、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」は、「高齢社会における資産形成・管理」という報告書の中で、老後の家計について、毎月約5万円の赤字が発生すると予測し、「老後の20年間で約1,300万円、30年間で約2,000万円が不足する」という試算を公表しました。
また、この報告書では「毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填 」するものとしています。つまり、2,000万円以上の預貯金がなければ「人生100年時代」において、平穏な老後生活は送れないことになります。この2,000万円という額は、夫婦とも厚生年金の場合ですので、加入している年金の種類によっては倍以上の金額になります。かつては「一億総中流」と呼ばれた日本社会でしたが、働き方や雇用形態も変化し、保有資産や所得等の状況はバラつきが見られるようになっています。
内閣府の調査では「2人以上世帯・単身世帯ともに、貯蓄理由としては、老後の生活資金との回答が最も多く、次いで病気や不時への備え(予備的動機)が多い」としています。しかしながら現在、日本は「2人以上世帯の3割、単身世帯の5割が貯蓄なし」という状況にあります。
老後の生活資金とは、高齢化によって医療機関にかかる頻度が増えることや、介護の必要性が増すことですから、医療・介護に回さなければならない資金を低額にすることによって、その資金は貯蓄ではなく消費に回すことができます。
英国では、公立病院を受診する際、税金で運営されている「国民保健サービス(通称NHS)」を利用すると医療費は原則無料になります。また、昨年の10月以降、介護を受ける人はすべて、生涯で86,000ポンド(約164万円)以上を支払うことがないよう、介護費用の上限を設けています。世界幸福度ランキングで上位を占める北欧諸国も医療・介護は無償、もしくは自己負担額を低額に上限設定しています。
私は前回の「県政改革 大学の教育費の無償化ついて」の中で、「教育費を捻出するために消費を差し控えることや、老後の介護や医療費捻出にために貯蓄しなければならないのではなく、これらのベーシックサービス(基礎的な社会サービス)は、「自助努力」「受益者負担」「自己責任」だけではなく、国民全体の問題として捉え、財源のあり方についてもタブー視せずに、議論を深めていきたい」と書かせて頂きました。
「お金は一カ所に滞(とどこお)ることなく、様々な所を流通することによって、市場が活性化する」ことを踏まえますと、現役世代の時期から、老後に備え、ギリギリの生活をして貯蓄するのではなく、老後の医療・介護への不安を持たず、そのお金を消費に回した方が、日本経済のためには良いのではないでしょうか。