性犯罪・性暴力は被害者の個人の尊厳が冒されるばかりでなく、被害者が自らを個人として尊重されるべきものと思えなくなってしまう程の、重大で深刻な被害を与えます。被害の性質上、支援を求めることをためらうことで、被害者の多くが泣き寝入りし、事件として顕在化するのは氷山の一角であるとも言われています。また性犯罪・性暴力は、被害者が心に大きな傷を負い、その傷を一生引きずることから「魂の殺人」と呼ばれています。
「令和元年版犯罪白書」によれば、強制わいせつなどの性的事件の被害者のうち、警察等に被害申告した人はわずか14%で、この結果について警察は「つらい経験を他人に明らかにするという心理的な負担は大きく、申告を見送る人が多いのではないか」と分析しています。
また性犯罪で服役している受刑者や保護観察を受けている者は、再犯を防ぐための「処遇プログラム」を受けることになっていますが、法務省の「性犯罪者処遇プログラム検討会報告書」によれば、電車での痴漢のように行為が常習化している者や、子どもを狙うような者は、再犯率が変わらず、「処遇プログラム」の明確な効果がみられなかったとしています。そして法務省の「平成27年版犯罪白書」によれば、特に小児わいせつ事件を起こした者の8割以上が同じ犯罪を繰り返す「再犯者」だということです。
不幸にも性犯罪被害に遭ってしまった場合は、被害者の心に寄り添い、産婦人科での診断や専門医のカウンセリング、警察での女性警察官による対応、弁護士への相談等を1カ所で迅速に相談できる「ワンストップ支援」が必要になります。千葉県では、2017年に「千葉県性犯罪・性暴力被害者支援協議会」が発足し、性犯罪被害者へのワンストップ支援体制が強化されるようになりました。今後とも性犯罪被害者を支援する施策は尚一層強化しなければなりませんが、性犯罪加害者をいかに減らすかという観点から、性犯罪加害者と直接に向き合う施策も必要であると私は考えています。なぜならば、性犯罪加害者が性嗜好障害、性依存症等であった場合には、アルコール依存症や薬物依存症等と同様に、自らの意志だけで衝動をコントロールするのは難しく、この「病」を治療しない限り、犯罪を繰り返すからです。
今年の5月から福岡県は「福岡県性暴力加害者相談窓口」を開設し、専門スタッフが対象者一人ひとりの相談内容に応じて、再犯防止専門プログラムを実施したり、就労等の生活自立支援や、問題行動を是正するための専門医療機関の紹介等を行っています。これは全国初の試みであり、私は今、福岡県のこの取り組みを注視しており、また機会をとらえて千葉県でも、この制度を取り入れるよう提言する所存です。
令和2年12月13日 野田たけひこ