静かなる見えざる有事

 内閣府は今月15日に、今年4〜6月期のGDPの速報値は1〜3月期に比べ1・5%増で、このペースが1年続けば年率換算で6・0%増になると発表しました。

 GDPは「国力」を図る指標としても用いられています。「国力」とは「国家の経済的・軍事的・政治的・文化的・人的資源などの総合力を指す言葉」とされており、国力が高い国は、国際社会において主導的な役割を果たすことが多い一方、国力が低い国は経済的・政治的な制約を受けることがあります。

 「国力」の要素とされる「軍事力」について、日本の場合は「防衛力」と言った方がいいと思いますので、以下、防衛力としますが、防衛力を一定レベルで維持していくには、経済力、技術力、人的資源、国際的な協力、内部の安定などがバランスよく推進されることが必要となります。

 有事に備えているのが自衛隊ですが、「令和4年 防衛白書」によりますと、定員に対し実際にいる隊員の割合(充足率)は、「幹部」で93・7%「准尉」で95・1%「曹」で98・4%です。また若い世代で構成される「士」は79・8%と大きく定員割れしています。そして、これも少子化の影響によるものです。

 充足率100%の戦闘部隊は、戦闘による被害で損耗率が20%となると「ほぼ戦闘不能状態」損耗率が30%で「戦闘不能状態」、50%で「全滅」と判断されますので、自衛隊の「士」における20・2%の定員割れは、極めて由々しき事態であるといえます。

 経済力の裏付けのない防衛力は、軍事的な能力を十分に維持・発展させるために必要な条件が整っていない状態であるため、安全保障上の脆弱性が高まり、国際的な安定や国益の確保が難しくなる可能性があります。

 さらに、「国力」の要素である「人的資源」は、教育水準や技術的な能力、労働力の質など、高い人的資源を持つ国は、イノベーションや経済成長において優位に立つことがあります。

 GDP年率の増は喜ばしいことですが、もうすでに15~64歳の生産年齢人口は減少していますので、国内の市場は縮小され、経済成長も減少し、長期的にみると我が国の「国力」は低下していくことになります。

 少子化の進展による人口減少は「静かなる見えざる有事」(内閣府)ともいわれています。岸田首相が掲げる「次元の異なる少子化対策」は、「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造・意識を変える」「全ての子育て世帯を切れ目なく支援する」の3点を基本理念としています。具体策として、「児童手当の対象拡大や男性の育児休業取得の促進」等を挙げています。もちろん異を唱えるものではありませんが、国は「子どもが生まれたら」の支援、「子育て支援」ばかりでなく、「婚活支援」「妊婦健診の公費負担のあり方」にも目を向けるべきです。